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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)9065号 判決

原告

永井清志

被告

水沼聡

ほか一名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年七月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告水沼は、昭和五七年七月二六日午前一〇時五〇分ころ、普通貨物自動車(和泉四〇り六八一号、以下「水沼車」という。)を運転して大阪市住之江区中加賀屋三丁目一一番八号先路上を西から東に向かつて進行中、佇立していた原告に自車を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  責任

被告水沼は、自車を運転して前記路上を進行するに当たり、その前方に原告が佇立していたのであるから、前方を注視するとともに、ハンドル・ブレーキ等を適当に操作し、自車を原告に衝突させることを未然に防止すべき注意義務があつたものである。しかるに、同被告は、前方に対する注視を怠り、ブレーキとアクセルを踏み誤つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。

また、被告会社は、本件事故当時水沼車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷、治療経過、後遺障害

原告は、本件事故により左右腰部・右下腿足部・左右肩胛部・右前腕小指打撲傷、外傷性頸部症候群等の傷害を受け、昭和五七年七月二六日から昭和五八年二月二〇日まで住之江病院に通院(実日数一七一日)、同月一七日から同月二〇日まで山本第三病院に通院(実日数一日)、同月二一日から同年七月五日まで(一三五日間)同病院に入院、同月六日から少なくとも昭和五九年三月三一日まで同病院に通院(実日数二〇六日)、昭和五七年一一月二六日から昭和六〇年五月七日まで大阪市立大学医学部附属病院に入通院(昭和五九年八月七日から同年九月二五日まで五〇日間入院、通院実日数一二二日)して治療を受けた。しかし、原告の右傷害は、結局完治せず頭部、頸部・腰部・手・両膝関節・右足関節痛、耳鳴といつた後遺障害を残存させ、昭和六〇年五月二五日、その症状が固定するに至つた。原告の右後遺障害は、自賠責保険の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたが、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するものである。

4  損害

(一) 入院雑費 金一八万五〇〇〇円

原告は、一八五日の前記入院中、一日当たり金一〇〇〇円、合計一八万五〇〇〇円の雑費を要した。

(二) 休業損害 金一二六八万四〇〇〇円

原告は、本件事故当時四七歳の健康な男子で、調理師として勤務し、月額三五万一〇〇〇円の給与を得ていたほか、夏期一〇万円、冬期一五万円の賞与を得ていた。しかるところ、原告は、本件事故による傷害のため、本件事故の日から症状固定の日まで休業せざるを得ず、三四か月分の給与、三年間分の賞与に相当する金一二六八万四〇〇〇円の得べかりし利益を得られなかつた。

(三) 逸失利益 金二二二万六五四七円

原告の前記後遺障害の内容・程度等は前記のとおりであるから、原告の後遺障害による労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力喪失期間は四年間である。そして、原告が本件事故当時に得ていた利益の額は前記のとおりである。そこで、原告が右の間に失うことになる利益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金二二二万六五四七円となる。

(351,000×12+100,000+150,000)×0.14×3.5643=2,226,547

(四) 慰謝料 金四五〇万円

原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金四五〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として金一〇〇万円の支払を約した。

5  損害の填補

原告は、被告から金六二六万六〇〇〇円の損害賠償金、水沼車の自賠責保険から金七五万円の保険金の支払を受けた。

6  結論

よつて、原告は被告らそれぞれに対し、4(一)ないし(四)の合計額から5の既払額を控除した金一九五九万五五四七円の内金九〇〇万円に4(五)の弁護士費用を加えた金一〇〇〇万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年七月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実中、原告が自賠責保険の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたことは認めるが、その余の事実は知らない。仮に原告が本件事故により受傷したとしても、住之江病院における初診時の訴えは、腰部、右内果から第一趾にかけてと右上肢の疼痛等だけで、腰部、臀部、右肩及び右内果のレントゲン検査上異常はなく、頸部についての訴えは全くなかつた。したがつて、同病院における治療も温湿布、鎮痛剤投与といつた程度のものであり、その後、症状の特段の増悪はなく、昭和五七年一一月には担当医も原告が就労可能であるとして就労を勧めているのであり、同病院への通院をやめた昭和五八年二月二〇日ころには遅くとも症状固定又は治癒となつていたものである。仮に原告に一定の神経症状があつたとしても、それは原告の加齢等による椎間板の膨隆、生来的な脊柱管の狭さ、心因的な要素が合わさつて症状が生じたもので、本件事故によるものではないから、本件事故と相当因果関係はない。また、原告は、もともと自宅で食堂を経営していたところ、本件事故後も右営業を続けており、手伝つていた割烹もり本へも昭和五七年一〇月二五日以降勤務しているのであつて、原告の主張するような休業を要するものではなかつた。

3  同4の事実は知らない。

4  同5の事実は認める。

三  抗弁

1  損害の填補

被告らは原告に対し、前記既払金のほか金二六万九二四〇円の損害賠償金を支払つた。

2  素因の寄与

仮に原告が本件事故によりその主張のような傷害を負つたとしても、原告には請求の原因に対する認否2において述べたような素因があり、これが寄与して発症又は症状が悪化したものであるから、右素因の寄与を斟酌して損害額の減額がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生及び責任

請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。したがつて、被告水沼は、民法七〇九条に基づき、被告会社は、自賠法三条に基づき、いずれも本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

二  原告の受傷、治療経過、後遺障害等

成立に争いのない甲第一ないし第三八号証、乙第一号証の一、二、第二、第三号証、証人松田英雄の証言によれば、次の事実が認められ、これに反する原告本人尋問の結果は右の各証拠に照らして信用することができず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、本件事故当日の昭和五七年七月二六日、住之江病院を訪れ、自動車のタイヤに当つて転倒したと述べて右内果部中心に疼痛及びしびれ感を、右足第一趾・腰から臀部にかけて・右肩胛関節上部に疼痛を訴えた。そこで、腰椎・臀部・右内果・右肩胛関節のレントゲン検査をしたところ、異常はなく、同病院医師は、原告の傷病名を腰部・臀部・右大腿右足第一趾・右肩胛部打撲傷として加療一〇日間を要するものと診断し、湿布ホータイコリシツプの処置と内服薬クリノリル錠とマーズレンSの投与をしただけであつた。原告は、右同日から昭和五八年二月二〇日まで同病院に通院(実日数一七一日)して治療を受けたが、昭和五七年七月二八日ころから左肩部や右前腕尺骨側から小指にかけての疼痛を訴えて左肩胛部・右前腕小指打撲傷の診断名が追加された。また、原告は、同年八月一七日には偏頭痛を、同年九月二一日には右頸部痛、右頭痛を訴えたが、これらは継続的なものではなく、これに基づく診断名の追加もなく、主たる訴えは前記の限度にとどまるものであつた。右の通院中、原告には、左坐骨神経領域に圧痛が認められたが、脳波検査、膝蓋腱反射、クローヌスとも異常はなく、前記患部の湿布ホータイコリシツプの処置、薬物の投与と静注を受け続け、同年一〇月四日からは理学療法(腰・右足の熱気浴)が行われた。しかし、右期間を通じて原告の訴えには大きな変動はなく、症状の改善があるものとは認められなかつた。

2  原告は、昭和五八年二月一七日、本件事故により左腰部を自動車に当てられ、転倒して受傷し、頭痛、右後頸部痛、左手のしびれがとれないことを訴えて山本第三病院に転医し、その希望により検査目的で同月二一日から同年七月五日まで(一三五日間)同病院に入院し、同月六日から昭和五九年八月四日まで同病院に通院して治療と検査を受けた。原告が右病院に入通院中に訴えた症状は、頭部・頸部・右肩・両上肢・腰部・臀部・右内果・第一趾痛、耳鳴、第七頸椎から第一胸椎にかけてと両上肢のしびれといつた多彩なもので、同病院医師は、当初原告の傷病名を外傷性頸部症候群、腰部・右下腿・右足関節打撲傷と診断し、のち左膝関節症を追加した。原告の昭和五八年二月一七日のレントゲン検査の結果、第三、第四頸椎に軽度の角化現象が、頸椎の正面像が最狭少部で直径一三・五ミリメートルになつていることが認められたが、そのほかの異常は認められず、その夜行われた昭和五九年二月九日、同年四月一八日のレントゲン検査の結果は正常と認められ、変性所見もないものとされた。また、同年二月九日のCTスキヤンにおいても異常は認められなかつた。原告の右入通院中、左第六頸神経領域・両前腕・手肢の知覚低下・両上肢の萎縮(軽度)、左下腿の浮腫、臀部の圧痛が認められ、握力テストの結果は、昭和五八年九月二二日、右一七キログラム、左一五キログラム、昭和五九年四月五日、左右とも一七・五キログラム、同月一九日、右一二キログラム、左一五キログラム、昭和五九年五月二六日の下肢挙上テストの結果は、左右差あり(右八〇度、左六五度)、同日の腰痛等機能テストの結果は、頸部が前屈二〇度、後屈三〇度、側屈右二〇度、左一五度、回旋右二〇度、左二五度、腰部が前屈四五度、後屈三五度、側屈右二〇度、左四〇度、回旋右四〇度、左二五度、足関節が背屈右一〇度、左二五度、底屈右三五度、左五〇度というもので、他の神経学的な諸検査上異常は認められなかつた。同病院の原告に対する治療は、昭和五八年七月七日、一八日、二一日に大後頭神経ブロツクをした以外は、薬物療法と温熱療法が中心で、入通院中大きな変化はなく、したがつて、原告の症状も全体的には著しい変化はなかつた。そこで、同病院医師は原告に対し、同年八月一八日、前記経過及び退院時原告の歩行が安定していたことなどから症状固定の段階にあるものと判断してその旨の説明をした。

3  原告は、昭和五七年一一月二六日から昭和六〇年五月七日まで大阪市立大学医学部附属病院に入通院(昭和五九年八月七日から同年九月二五日までミエログラフイーの目的で五〇日間入院、右の間の通院実日数は一一五日、昭和五八年一二月一七日までの通院実日数は七日)して治療及び検査を受けたが、その当初の診断名は外傷性頸髄症で、のち外傷性頸部症候群、右足関節部挫傷後の疼痛とされるに至つた。昭和五七年一一月二六日から原告の診療に当たつていた同病院の松田英雄医師は、昭和六〇年五月二五日、原告には自覚症状として頸部・腰部痛、手・両膝に力が入らない、耳鳴、左手尺側のしびれ、歩行時の右足関節痛などがあり、他覚的所見として握力が右一〇キログラム(右利き)、左一三キログラムに低下、左手指尺側の知覚鈍麻、両上肢腱反射軽度亢進、足関節のアキレスクローヌス両側とも軽度陽性、右足関節内側の圧痛と運動制限(背屈が自動で右〇度、左二〇度、他動で右〇度、左三〇度、底屈が自動で左右とも三〇度、他動で右三五度、左四〇度)、頸椎部の運動制限(前後屈右屈左屈とも一〇度、右旋回左旋回とも三〇度)、ミエログラフイー上の第五、第六椎間板レベルにおける正常像と圧迫像の二重像(造影剤がクモ膜上にも入つているので読影は難しいがとの留保がついている。)が認められるとして、同日をもつて原告の症状が固定した旨の後遺障害診断をしている。なお、同病院においては、ミエログラフイーの結果、当初は手術適例と判断したが、そののち脊髄症状であると断定するには症状が乏しく、手術によつて原告の訴える症状の大部分を除去できる見通しが立たなかつたので、結局手術は行われなかつた。

4  前記松田医師は、住之江病院、山本第三病院、大阪市立大学医学部附属病院における原告に対する治療経過及び結果を踏まえて、原告には椎間板の膨隆による脊柱管の圧迫があり、これが左手指尺側の知覚鈍麻、両上肢の腱反射亢進、アキレスクローヌスの陽性の原因と思うが、右足関節の圧痛はこれと関係のない場合が多く、これが運動制限の原因であるかどうかの判断は難しい、原告の椎間板の膨隆は、事故による可能性もあるが、生来的なものに加齢現象などが加わつてみられることがあり、このような場合がむしろ多いので、これが本件事故によるものかどうかは判らない、そのような変形があつたとしても、全く症状が出ない場合もあり、事故により直ちに又は後になつて症状が顕れることもありうるが、事故と関係のない日常生活の中で症状が出てくることもあり、本件がそのいずれかであると判断するのは難しい、一般に打撲というものは一、二か月もあれば治癒してしまうものであるが、住之江病院への通院中、神経症状が出てきていたとみる余地もある、原告の症状は、全体的に著変はなく、その程度と継続期間の長さは理解し難い面があるが、おそらく本件事故によるものであり、ただ、うつ的な傾向による心因的な要素も半分程度寄与しており、仮に症状が素因に基づくものだとすれば、素因も半分程度は寄与しているものと思う旨述べている。

右認定の事実及び前記争いのない事実(事故の発生)によれば、原告は、本件事故により腰部・臀部・右大腿右足第一趾・右肩胛部打撲傷の傷害を受けたものと認められ、右傷害の部位とかなりの部分において発症部位を共通にする原告の頸部症候群の症状も、その発症が約半年遅れ、生来的なものに加齢的なものなどが加わつて生じた椎間板の膨隆と、心因的な要素が相当寄与しているものの、本件事故によつて生じたものと推認することができる。そして、原告の症状は、住之江病院を退院して山本第三病院に入通院するようになつたころにはいまだ亢進中であつたということができるが、同病院に入院してからは著変はなく、同病院退院後も症状の著変はないので、同病院退院後、同病院医師が原告に対し症状固定の段階にあると説明した昭和五八年八月一八日には、原告の症状は固定していたものと推認することができ、その後なされた治療及び後遺障害診断は、従前の治療及び症状の経過を踏まえることなく、患者の気持等諸般の臨床医としての配慮に基づいてなされたものと認められるので、右の判断を左右するものではないというべきである。しかるところ、原告の山本第三病院への入院は、受傷後約半年を経過していて急性期を過ぎており、原告の希望により検査目的でなされたもので、安静が必要であつたり、通院では不可能で入院しなければできない治療を必要としたり、入院しなければ症状が悪化してしまうといつた事情は全く認められないので、入院の必要性がないのにかかわらずなされたものと認められる。もつとも、右入院中、通院の必要性はあり、この間の治療自体は通院することによつてなされていたものと認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある通院期間は、昭和五七年七月二六日から昭和五八年八月一八日までで、その間の通院実日数は、住之江病院への一七一日、山本第三病院への一七三日(前掲乙第三号証によれば、原告の昭和五八年七月七日から同年八月一八日までの通院実日数は三七日であり、これと同年二月一七日通院分及び前記同月二一日から同年七月八日までの一三五日分を合わせると、一七三日となる。)、大阪市立大学医学部附属病院への五日(昭和五七年一一月二六日から昭和五八年一二月一七日までの通院実日数が七日であることは前記のとおりであるところ、同年八月一八日までの通院実日数を的確に認定できる証拠はないが、期間の割合からみて右の日までに五日は通院していたものと認められる。)の合計三四九日と認めるのが相当である。そして、原告の前記傷害は、2及び3で認定したような後遺障害を残存させて前記のように昭和五八年八月一八日その症状が固定したものであり、その後遺障害は、相当程度に他覚的所見の裏付もあり、主訴も多岐にわたるところからみて、等級第一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するものと認めるのが相当である。

三  損害

1  入院雑費

原告は、前記一八五日間の入院中の雑費を本件事故による損害として主張し、原告がその主張のとおり病院に入院したことは前記のとおりであるが、右の入院は、前記のとおり、入院の必要性がないもの、もしくは症状固定後の検査目的のものであるから、本件事故と相当因果関係のある損害を生ずべきものではないというべきである。

2  休業損害

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三九号証、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる同第四〇号証によれば、原告は、本件事故当時四七歳の健康な男子で、割烹「もり本」に調理師として勤務し、月額三五万一〇〇〇円の給与及び年額二五万円の賞与を得ていたことが認められる。しかるところ、本件事故による原告の傷害及び症状の経過は前認定のとおりであるから、原告は本件事故による受傷のため、昭和五七年七月二六日から昭和五八年八月一八日までの三八九日間休業せざるを得ず、この間、次の計算式のとおり、金四七五万五三九二円の得べかりし利益を失つた。

(351,000×12+250,000)÷365×389=4,755,392

3  逸失利益

原告の後遺障害の内容・程度、職業は前記のとおりであるから、原告の後遺障害による労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力喪失期間は四年間と認めるのが相当である。そして、原告が本件事故当時に得ていた収入の額は前記のとおりである。そこで、原告が右の間に失うことになる利益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金二二二万六五四七円となる。

(351,000×12+250,000)×0.14×3.5643=2,226,547

4  慰謝料

原告の本件事故による傷害及び後遺障害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金三三〇万円と認めるのが相当である。

四  寄与率による損害額の減額

前記二において認定判断したとおり、原告の症状の発生には、生来的なものに加齢的なものなどが加わつて生じた椎間板の膨隆と、心因的な要素が相当程度寄与しているものであるところ、これが原告の症状の発生に寄与した割合は、五割を下るものではないと認められるので、過失相殺の規定を類推し、原告の前記損害額(金一〇二八万一九三九円)の五割を減額するのが相当である。

五  損害の填補

請求の原因5及び抗弁1の事実(金七二八万五二四〇円の既払)は当事者間に争いがない。したがつて、原告の損害は、すべて填補されたものである。

六  結論

以上の次第で、原告の本訴各請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下滿)

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